A.自分自身。だそうです。byニーチェ。
コロンビアの図書館地下三階の一番奥にある学習机に腰掛て天上を見上げると、空が透けて見えた。
分野別に分かれた社会学の入門書を何冊か抱えて、誰もいない場所を選んで座る。
頭のいい人たちの棲む環境を借りてみるのだ。(賢くなんないかなぁ)
わざわざ誰も来なさそうな場所を選んだのに、しばらくするとピンクとライトグリーンのストライプのシャツを着たブロンド頭のお兄さんが、板一枚挟んで私と向かい合う席に座った。
虫の息も聞こえる程に静かなだけに、ちょっと緊張する。
いけない、活字に意識を戻さなきゃ。
数分後、前方からキーボードをたたく音が聞こえてくる。
彼はレポート執筆に勤しむらしい。
私もページをめくる音で応戦する。
膨大な図書の中から今日は主に消費や広告、デザインやモードについの本を選んでみた。
日本の名の知れた学者たちが、様々な切り口からそれを語り、入り口を照らす共著で、イントロダクションとして軽食を食べる感覚で読める。来月の頭にゼミの希望書を書かなければならないのに、すっかり路頭に迷ってしまったので、ヒントを見つけるには丁度よさそうだ。(この場に及んでヒントとか喚く時点でどうかしてる)
しかし基礎といっても理論を知っていないと読み進められず、ボードリヤール、ガルブレイス、知っててあたりまえでしょーという語り口に足止めを喰らってしまう。
1からやり直しらしい。うわーん。
原書は時間がかかるからと、投げてしまったトランクにいれっぱなしのペーパーバックを思い出して、溜め息。
重なるようにお兄さんが炭酸飲料の蓋を開ける音がする。
ふぅ・・・
プシュー
・・・カチカチカチ
完全空気が抜けた私に相反して、板の向こうは随分仕事がはかどっているようだ。
流石というか、彼の集中力の持久性に舌を巻く。
負けました。
カチッカチッと改行のエンターキーを押す音がやけに響く。
この場所にエンターするのがどんなに大変かは、周知の事実なのに。
PR