地下鉄の中で、音の出ないイヤホンを耳にして読んでいたら、後楽園で右隣に、三十一寸過ぎのOL風の人が座ってきた。
品の良いブラックのパンツスーツを着た女性だったが、彼女の耳に刺さった黒いイヤホンからは、列車が、線路を擦り、風を切って走る音を打ち負かす音量のハードロックが流れていた。
左隣に座っていた主婦らしき女性は、音の出所はどこだろうかと左右に首を捻り、
私の読んでいる本に視線を落とした。
丁度その時私は殺人シーンを読んでいて、彼女はそれを見て私が音の犯人だと決め付けた。
車内には、私を攻撃する無数の視線が交わった。
トーキョー。
本に悪気はないし、私にも悪気はないし、私が19歳の小娘であることも変えられない。
人種のサラダボウルのような都会は、自分は特別視、他は同じくくりだ。
なるほど、ごちゃごちゃしたところにいると、人間はおかしくなる。
ならば私は飛翔力をつけて飛んでやろう。
と、駅員にも見捨てられた、言葉の不自由な男性が下車するのに車椅子を押してやり、ベビーカーに赤ん坊を連れた中東系の女性が階段を上がるのを手伝った。
後頭部に集中する、驚愕した視線たちは無視した。ふん。
以上、この本を読んでる最中におきたエピソード。
筋の評価は別として、
相変わらず伊坂氏は小技が洒落てると感心した。
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